トラック輸送には、自家の貨物を輸送する自家用トラック(白地のナンバープレート)と、他者の貨物を有償で輸送する営業用トラック(緑地のナンバープレート)の2種類があります。この営業用トラックについては、貨物自動車運送事業法で、事業形態が一般貨物自動車運送事業と特定貨物自動車運送事業に大別され、さらに一般貨物自動車運送事業のなかの一形態として特別積合せ貨物運送があります。一般貨物自動車運送事業は、不特定の荷主の貨物を有償でトラックを使用して運送する事業です。実態としては、一者の荷主のまとまった荷物を車両単位で貸し切って輸送することがありますが、同時に複数の荷主企業の貨物を積合せて輸送することもできます。
一般貨物自動車運送事業のなかで、不特定多数の荷主から集荷した貨物を、起点および終点のターミナル等の営業所または荷扱所で必要な仕分けを行い、そのターミナル等の間で幹線輸送などを定期的に行うのが特別積合せ貨物運送事業です。宅配便はこの事業に含まれます。
特定貨物自動車運送事業は、品目ごとに荷主などを限定して輸送する事業です。
トラック運送事業者の事業規模は、車両数20両以下の事業者が全体の77.6%を占める構造となっています。中小企業基本法では「資本金3億円以下又は従業員300人以下」の企業を中小企業と規定していますが、これによると、一般貨物自動車運送事業者の99%以上が中小企業ということになります。
|
|
平成2年の貨物自動車運送事業法施行以降、トラック運送事業の規制緩和によって新規参入事業者が急増しました。19 年度までは、毎年2,000者程度の事業者が新たに参入し、規制緩和以降の17年間で1.5
倍以上に増えています。しかし、輸送需要が伸び悩むなかで事業者間の競争が激化し、最近は、事業者数の増加率が鈍化するとともに撤退事業者数が増加しています。この結果、20
年度末は規制緩和以降初めて総事業者数が前年度より減少しました。 さらに21年度末のトラック運送事業者数は6万2,712 者と、2年連続で減少しました。
一方、規制緩和以降、事業者が増えたことにより、トラック運賃の水準は一貫して低下を続けています。内閣府の推計によると、14 年度における利用者メリットは3兆8,000
億円以上になると分析しています。 |
|
|
トラック運送事業は、典型的な労働集約型の事業です。このため、運送コストのうち人件費の比率がもっとも高く、平成21年度で38.4%にのぼります。
一方、厚生労働省の統計によると、道路貨物運送業の賃金水準は全産業平均に比べて低く、近年の厳しい経済環境の下で、低迷する運賃と燃料油脂費等のコスト増などの影響を受けて、減少傾向をたどっています。
|
 |
新たな物流ニーズへの対応と新しいサービスの創造を目指して平成2年12月に施行された物流二法は、新規参入事業者の急増ならびに市場競争の激化をもたらしました。
このような状況のなか、15年4月には改正貨物自動車運送事業法が施行され、経済的規制のさらなる緩和により、自由な経済活動の環境を前進させる一方で、公平な競争条件に向けた事後チェック体制の強化が図られました。
その一方で事業の適正化に向けて、改正省エネ法施行や運輸安全マネジメントの実施等輸送の安全確保や環境などに関する規制強化を明確にする立法、施策が実施されています。こうした経済的規制緩和、社会的規制強化の適正な運営について、トラック運送事業者の適切な対応が求められています。
社会的規制の強化により、その対応に迫られる一方で、貨物輸送量の伸び悩み、事業者の増加に伴う競争の激化、軽油価格の高止まり、長距離や若年ドライバーの労働力不足が顕在化するなど、中小トラック運送事業者を取り巻く環境は極めて厳しいものとなっています。
|
|
 |
|
●荷主との適正取引が課題に |
トラック運送業界は、物流二法施行後の規制緩和の進展により新規参入事業者が増加し、企業間競争の激化やこれによる従属的な取引関係の習慣化により、下請構造の多層化が進みました。また、トラック運送事業者は荷主との関係では構造的に弱い立場におかれています。
このような状況を鑑みて、平成16年4月よりトラック運送事業の下請取引が「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)の対象となり、また、真荷主とトラック運送事業者の取引を公正にすべく、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(独占禁止法)に基づき、「特定荷主が物品の運送又は委託する場合の特定の不公正な取引方法」の指定(物流特殊指定)を受けました。それぞれ元請事業者、真荷主の優越的地位の濫用を禁じた規定です。
さらに、22年1月より独占禁止法が改正され、一定の条件を満たす場合には、優越的地位の濫用にも課徴金が課せられることとなりました。これに伴い、公正取引委員会は22年11月、課徴金の対象となる優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方を明確化するため、「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」(ガイドライン)を策定しました。
公正取引委員会は21年11月に「優越的地位濫用事件タスクフォース」を設置し、毎年、書面調査などの実施調査を行い、濫用行為の抑止・是正を図っています。22年度の優越的地位の濫用行為の審査事件の処理概要では、措置件数が全体で56件、「注意」については前年度比で2.5倍となっています。
一方、国土交通省は20年3月、適正取引の推進に向け「トラック運送業における下請・荷主適正取引推進ガイドライン」および「トラック運送業における燃料サーチャージ緊急ガイドライン」を策定しました。また、同年5月には、行政、学識経験者、荷主、元請および下請トラック運送事業者らで構成する「トラック輸送適正取引推進パートナーシップ会議」を中央と地方に設置し、荷主、元請、下請事業者間の協働による望ましい取引形態の普及、問題となる取引形態の防止を図っています。 |
|
 |
|
●燃料価格変動への対応 |
トラックの燃料である軽油の価格(ローリー価格、消費税抜き)は、平成15年度平均で1リットル当たり約64円だったものが、20年8月には約144円となり、2倍以上にも上昇しました。その後、原油価格の大幅な下落とともに国内軽油価格も下落し、21年3月には約73円まで下がりましたが、その後再び上昇し、23年4月にはおよそ109円まで値上がりしています。
軽油価格1円の値上がりで、トラック運送業界全体の費用負担は約160億円も増えます。原油価格は現在もなお強含みで推移しており、さらに中国をはじめとする新興国での需要の底堅さや欧米の財政不安から今後も上昇傾向を続けると懸念されています。
トラック運送業界では、エコドライブ等の徹底により燃料消費量そのものを抑えたり、協同組合を通じた燃料の共同購入を進めるなど、少しでも安価な燃料の確保に努めていますが、こうした自助努力でも補いきれない部分については荷主の理解が不可欠です。
国土交通省は20年3月、公正取引委員会と連名で「軽油価格高騰に対処するための緊急措置」をまとめました。トラック運送事業者は運賃交渉力が弱いため、これを放置して適切な運賃転嫁が進まないとわが国の物流基盤が維持できなくなる、との危機感から、燃料サーチャージ制の導入と独占禁止法・下請法の取締り強化などを打ち出しました。
また同時に、「燃料サーチャージ緊急ガイドライン」と「下請・荷主適正取引推進ガイドライン」の2つのガイドラインを策定し、この周知を行うために適正取引相談窓口をすべての運輸支局等に設置して、適正取引の推進と燃料サーチャージ制度の普及を図りました。
22年秋以降、軽油価格が再び高騰しており、改めて燃料サーチャージ制度の普及等運賃への転嫁が課題となっています。
|
|
 |
|
 |
|
|
 |