『全国を震撼させたレジオネラ症集団感染』
日向市の第3セクター・日向サンパーク温泉『お船出の湯』で発生したレジオネラ属菌による集団感染はあまりにも悲惨な結果となってしまいました。これまでにも茨城、静岡、鹿児島の各県でレジオネラ属菌の集団感染による死者が発生したにもかかわらず、その教訓が生かせないまま、約2万人の利用者のうち295人が感染、うち7人が亡くなるという痛ましい事故となってしまったことは誠に遺憾です。レジオネラ症は1976年にアメリカのフィラデルフィアのホテルで在郷軍人会総会が開催され、その参加者の間に原因不明の肺炎が集団発生、この時221人が肺炎を発症し、そのうち34人が死亡したと報告されました。この在郷軍人会のLegion(レジオン)をとって「レジオネラ症」という病名がつけられました
『レジオネラ症集団感染』のその後
今年の夏に発生したレジオネラ属菌による集団感染は過去最悪の非常事態となってしまったことは皆さんの記憶にも新しいことでしょう。この集団感染が発生して宮崎県内はもとより全国の温泉施設で利用客が激減しています。集団感染発生後、各施設でレジオネラ属菌の自主点検を行う一方、宮崎市保健所でも抜き打ちで立ち入り調査を実施し近く公表する準備をすすめています。また県福祉保健部レジオネラ症対策本部でも発生原因と対策についての見解を発表する見通しとなっています。

本誌の読者の皆さんの関心事は、県内各地にある温泉施設は「本当に大丈夫なのだろうか?」ということだと思います。県民の健康を考え、また温泉施設などに対する不安を解消すべく県は循環式浴槽をもつ類似公衆浴場約80施設の行政検査を実施しました。その結果報告では、営業者が徹底して衛生管理に努めた結果、レジオネラ属菌が陽性となる10個以上(単位CFU /100ml)の施設はまったくなく、また必要とされる残留塩素濃度もクリアできており、安心して温泉を楽しめる結果となりました。この行政検査にはゴルフ場の浴場のほか、デイサービスなどの福祉施設も含まれています。また、この検査の時点で循環式構造の浴槽を廃止した施設があったことも報告されています。

『レジオネラ属菌』とは

レジオネラ属菌は自然界の土壌や河川、湖沼などに生息する菌で、30種以上もの種類が存在します。一般的に20〜50℃で繁殖し、36℃前後で最も繁殖しやすいといわれています。長さ2〜20ミクロン、幅0.3〜0.9ミクロン程度の細長い菌で、菌体の一部に1本の鞭毛があり、よく運動します。ほかの細菌や藻類から栄養分を吸収したり、アメーバなどの原生動物の体内で繁殖する寄生菌であることもわかっています。

急激に重症になって死亡することがある肺炎型と、インフルエンザに似た発熱などの症状をおこすものの自然に治癒するポンティアック熱と呼ばれる非肺炎型の2種類があります。後者の非肺炎型は重症化することはほとんどありませんが、前者の肺炎型では、軽症の気管支炎から、日向でおきた集団感染のように、50〜60%の人が死亡するなど、非常事態に発展することもよくあります。2日〜14日の潜伏期のあと、食欲不振、倦怠感、頭痛、筋肉痛があり、かぜ症状に引き続いて悪寒をともなう39℃以上の高熱や肺炎症状がみられるようになります。さらには腎不全や心筋炎、心内膜炎などの重篤な合併症をきたし、亡くなるケースも見られます。

レジオネラ症と診断した医師は7日以内に患者の年齢や性別、病状、診断法を最寄の保健所に届けることになっています。

 

『レジオネラ症』の確定診断 

 レジオネラ症の確定診断は菌の培養(BCYE培地)や血清中の抗レジオネラ抗体価測定や遺伝子  診断などで明らかとなります。 

『温泉施設』以外での身近な原因

1.レジオネラ属菌の感染源

給水・給湯設備、空調用冷凍機(いわゆるクーラーのための設備)の冷却塔水、循環式浴槽、加湿器、ホテルのロビーなどに設置された噴水・池など人工的に作られた水景施設などからの感染が報告されています。家庭用の加湿器にはタンクの汚染がおこりやすく、長期間水を貯めたまま放置されるためレジオネラ属菌を繁殖させてしまう原因となっています。また家庭で用いられる循環式浴槽、いわゆる24時間風呂もレジオネラ属菌の温床といえましょう。さらに目の保養となるべきホテルのロビーの噴水がレジオネラ症の発生母地となり得る危険があることには正直驚かされました。

2.感染経路

レジオネラ属菌に汚染された水を吸引したり、飲み込んだりしたことによる経口感染や加湿器などに代表されるエアロゾル(目に見えない細かい水滴)を吸い込むことにより感染します。感染者を診察した医師の間では、とくに循環式浴槽内で手にすくったお湯で顔を洗ったり、お湯を頭からかぶったりした人に多かったいうと報告もありました。

『レジオネラ症』の予防対策

近年、数種類の浴槽を楽しめる大型の温泉施設が爆発的に増えた感があります。今回の調査で県内の温泉施設はほぼ安心して利用できることが明らかとなりましたが、のどもと過ぎた頃再び集団感染を発生させることのないよう施設側には徹底した衛生管理をお願いしたいところです。県内の観光施設は温泉を併設したところが多く、きめ細かな衛生管理が求められます。

利用者側はレジオネラ属菌増殖の原因となる浴槽内部やろ過器の毛髪やあかの有無のチェック、浴槽水をシャワーや打たせ湯に利用していないかなど、施設の衛生管理がどこまで行き届いているかを見定めることも必要と考えられます。また気管支喘息や慢性気管支炎などの重い呼吸器の病気でないか、白血球が減少する病気や治療を受けていないか、新生児や乳児、高齢者などからだの抵抗力が減弱していないかなど入浴前に健康のチェックを行うことも必要でしょう。また家庭の水道水は塩素による消毒が義務付けられているため、水道水によるレジオネラ症発生の危険性は低いと考えられますが、24時間風呂、加湿器など水をこまめに取り換えて清潔にしないと本当に身近なところでレジオネラ症発生の危険が潜んでいることなどを基本的知識としてもち、安全管理を徹底したいものです